エピソード 松下幸之助氏

松下幸之助氏への手紙

金井武雄は、メガネと関わって以来、メガネを掛けている人の顔を見て、少しでも下がっていたり、似合わなかったりすると、どうしても気になって仕方がなかった。来店のお客様はもちろんのこと、まったくの他人のメガネでもその場で掛け具合の調整などをサービスしていたという。国内、海外の旅行には、必ず小型の工具を持ち歩いていた。

また、新聞や雑誌などで合わないメガネを掛けている人を見ると、記事を切り抜いて、修理をすすめる手紙を出したり、社員に直して差し上げるよう指示していた。そして、経営の神様と呼ばれた松下幸之助氏にも手紙をしたためている。昭和39年12月のことだ。新幹線開通を祝う大阪駅でのテープカットのテレビ中継。松下氏のメガネがずり落ちていた。金井武雄はめざとく気付き、メガネがずり下がっているのは不格好であり、海外へも行かれる機会が多い貴方が、そのようなメガネを使用されているのは日本のメガネ業界の恥のように思われるので、どうぞ調整させていただきたい、という内容の手紙を送付している。このときまでは、松下氏との面識は全くない。ただ、メガネに携わる者としての責任感を強く認識していたのだ。

すぐに、松下氏からお礼とともにメガネに無頓着であった自分を恥じる内容の返信が届く。

世界一のメガネ屋さん

翌年5月、松下氏が講演で札幌を訪れた際、金井武雄は氏に面会を求めて、是非メガネを直させてほしいと申し入れた。その熱心さにあらためて驚き、感心して店舗を訪れたと、松下氏は後に著書『折々の記』に執筆している。店構えや最新の設備、そしてキビキビと働く従業員の姿に感心し、さらに金井武雄のメガネへの深い思いを知り、「世界一のメガネ屋さんだ」とすっかり感じ入ったと書き残している。また、ただ帰ってしまうのは悪いような気がして、心ばかりのおみやげを置いてきたとも記している。おみやげとはラジオであった。

経営の神様に、心からの敬意を覚えると言っていただいた金井武雄。メガネの仕事に徹底して打ち込む姿は、これまで共に歩んできた社員すべての誇りである。

1965年(昭和40年)
5月松下幸之助氏ご来店
(狸小路本店)

松下幸之助氏より
いただいたラジオ

当社は松下幸之助著『折々の記』の中で、
"世界一のメガネ店"と絶賛いただきました。